歪んだ愛しさ故に

 
拓は、あたしの口から出た「葵」という名前を聞いて、ほんの少しだけ切なげに顔を歪めると
呆れたように微笑んでため息を吐いた。


「多分お前さ、誤解してんじゃねぇの?」

「え?誤解……?」

「もしかして、俺がまだ、葵のことを好きだとか思ってんだろ」


違うの?と顔に表して拓の顔を見上げた。

だってずっと、葵さんのことを思っては苦しそうな顔をしていた。
後悔の塊といった思いが滲み出ていた。

だから今日は、その想いを伝えにここまで来たんだと思っていたのに……。


「俺が葵に会いたかった理由は、ただ謝りたかっただけ。

 謝らないと、次に進めなかったから」


微笑んだ顔は、確かに何かに吹っ切れたような顔をしていて
今までどことなく影を見せていた、後悔の念というものが感じられなかった。


拓が葵さんに会いたかったのは、謝るため。
謝りたかったのは、次に進むため……。


それの、意味は……





「琴音と、ちゃんと恋愛したかったんだよ」





悔しい……。

言いたかった言葉を、先に言われてしまった。