見上げたそこにいたのは、 一瞬だけ固まってしまった拓の表情。 だけどそれは、切なげに歪み、帽子から流れる髪をすくった。 「琴音」 彼が発したあたしの名前が 痛いくらい心に響いて…… 「拓……」 思わず、そのまま「好き」と言ってしまいそうになった。 だけどその唇は 拓の唇によって遮られて…… 「……ッ…」 危ないところで、 言ってはいけない想いを、伝えずに済んだ。