「琴音」
そのまますぐに「閉」ボタンを押して、一刻も早く去ろうとしたのに、
それを阻むように上沢さんがドアを抑えた。
「……なんですか」
「今日、お前んち行くから」
「やめてください」
「ダメ。嫉妬させた罰」
「え?」
その言葉を言うと同時に、ドアを抑えていた手が離れて、
一人さっさとフロアへと向かってしまった。
抵抗をなくしたエレベーターはすぐに閉まり、
先に押していた1階のボタンに従ってエレベーターは下っていった。
「嫉妬って……
何言ってんだか」
誰もいないエレベーターの中で、ぽつりと吐き出された言葉。
嫉妬の意味なんて
ただ、自分の玩具が他人に触れられたことが気に入らなかったというだけ。
だからそこに、
男女の感情なんて存在してない。
だけど……
(じゃあ、中村は目と頭が悪いな。
こんなに面白くて、イイ女なんて、どこにもいないと思うけどな)
ふいにその言葉が思い出された。

