一時間後。
姫は新しい執事をともなって自室に戻っていた。
「改めまして、短い時間ですが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくです」
奥寺が食後のお茶を準備しているのを傍目に、姫はベランダに出た。
東洞家の庭園には母の趣味で背の低い植物は植えられていない。
そのかわり、今の季節なら梅の花が満開に咲き誇っている。
こうしてこの家で梅を見れるのもあと何回かな…。
先ほどのお見合い話が思いのほか重くのしかかってきて、姫の表情に一瞬陰りがさす。
そのときふと、華やかなアップルティーの香りが漂ってきた。
それに誘われるように、白い花弁が姫の前を横切った。
まぁ、なるようになるよ。
振り向いた姫はいつも通りのお気楽な姫だった。

