「そうそう忘れてた」


ダイニングテーブルに落ち着いた父はふと思い出したようにひとりの執事を呼んだ。


「彼の名前は奥寺蓮だ。今日から三月いっぱいうちで働いてもらう。昨日辞めた姫のメイドの代わりだ」


やって来たのは確かに見覚えのない顔で、しかも、かなりのイケメンだった。

黒髪にフレームレスのメガネ、ピシリとしたタキシードがよく似合う。


「みなさま、おはようございます。本日よりよろしくお願いいたします」



完璧な礼法で一家にあいさつをした奥寺は、そのまま姫の前の空いたお皿を両手にその場を後にする。


「なんか見覚えある気がするなぁ」


そうつぶやく長兄を尻目に、父は人知れず冷や汗をかいていた。