「あのね、お相手の人はある財閥の御曹司さんなの」


楽しそうに口を開いたのは母であった。


「先日のパーティで姫のことを見て、覚えていてくださったそうなのよ! なんだかロマンチックじゃない?」


興奮気味の母をさておき、父が姫にいう。


「どうだ? 少しでいいから会ってみないか?」


一呼吸おいた姫は父の目を見て、


「婚約は決定しなくてもいいのですね?」


「もちろんだ」


「それならお受けいたします」



よかった、と安堵の息を洩らす父を察するに、相当上客の頼みのようだ。しかもあんまり乗り気ではないと見える。


ここは親の顔を立てる、ぐらいでいいかな、と姫はひとりうなずいた。