その日の夕方、見た目がカタギではない執事に給仕され、姫は夕食を食べ終えた。
水を継ぎ足してくれる度に視界の中で揺れる茶色の髪が目新しい。
そういえば、本家にいた時、姫の周りで髪を染めている人はいなかった。
ふと本家の人々を思い出し、姫は少し寂しい気持ちになる。
と、コトンという音と共に、姫の前に鮮やかな柑橘類のゼリーが置かれた。
「これは…?」
さっき食事前の料理の説明にはなかった品だ。
「甘夏の寒天とじ、でございます。わたくしがさきほど作らせていただきました。」
心なしか奥寺が得意げに言う。
「今日はお嬢様、苦手な男どもがたくさんいる中、よく頑張りましたね。ご褒美です。」
姫の目が僅かに潤む。
「甘夏はいま旬の果物ですね。作る時に試食しましたが、かなり甘くて美味しいです。」
姫はスプーンを手に取り、ふふふっと笑ってゼリーをすくい取る。
「奥寺さんって、なんだかお兄ちゃんみたい」
「光栄です。」
夜は更けていく。

