数十分後、姫は一人で兵司家の屋敷の三階来ていた。
加宮と屋敷の使用人たちは、姫の荷物を広げるのに忙しくて、姫は一人で兵司家の主人にあいさつせざるを得なくなったのだ。
「加宮もみんなもひどいなぁ」
一応お嬢様なのに、この数分扱いはあまりにも…
「ひどいなぁ」
ぶうぶう言いながら、姫は三階の端にある家主の部屋の前にたどり着いた。
そこには一際大きくて重厚な造りの樫の扉がある。
ふっと一息はいた姫は、コンコンコン、と軽めのノックをした。
「はぁい」
兵司真希、この家の主、まさしくその人の声で返事があった。

