「姫お嬢様、素晴らしいお屋敷でございますね」


姫の地方行きにただ一人ついてきた加宮であるが、さすがベテランということもあってテキパキと姫の身だしなみを整える。


スカートのしわもピシッと伸ばし、満足気に姫を眺めた加宮は、「さぁ、お嬢様こちらです」と、姫が持っていたスーツケースを取り上げた。


「ですから、そういったことは私の仕事です。」


「はぁい…」


姫はちろっと舌を出して、屋敷から出て来た案内係に促されるまま、新たな生活へと足を踏み出した。









ちなみに、その様子を見ていた男がいる。


同じ敷地の中にある一番大きな木の上。


「やっと来たか。」


そうとだけ呟いて、ひらりと木から飛び降り、屋敷の方へ歩いて行った。


黒い髪が、ふわりと風に揺れた。