姫を襲ったのは、最初にお見合いをしたどこかの御曹司だった。
姫への未練を捨てきれず、ではなくて、飲酒運転をして縁談がお流れになった憂さ晴らしだったそうだ。
そんなことをママから婉曲に聞いた姫は、黙って紅茶を飲んでいた。
アップルティーだった。
最近姫はアップルティーばかり飲んでいる。
食事もあまり喉を通らないので、東洞家の人々はいつも姫を心配している。
今日もビスケットを数枚口に入れただけで、ここ何日もそんな状態だ。
それなのに、屋敷内での振る舞いは一連の件がある前と変わらず、みんなに優しい姫。
四月から担当になったベテランメイドも、泣きそうである。
あの日以来、姫が一度も心の底から笑っていないようなのだ。
そんなこんなで春休みは終わったが、さすがに学校へ行くのは父の勧めもあって遠慮している。
そうでなくても行きたくない。
外に出るのが、男の人が怖くなってしまったのだ。

