しばらくの沈黙の後、私はやっと声を出せた。




「ええぇぇぇぇぇぇ!?」




私と夕里の結婚式!?
なんで今頃!?




だって私もう39歳だよ!?
夕里だって40を越えた。




そんな夫婦が結婚式なんて……




慌てている私とは逆に、嘉子は落ち着いていた。




「…この前お母さんの帰りが遅かった時にお父さんから聞いたの、お父さんとお母さんのこと。
高校卒業して籍入れて、それから二人でフランスで暮らして日本で働き始めてから私が生まれた」




嘉子の言葉で私の頭の中は思い出が溢れてきた。




卒業式の時に婚姻届をリボンにして、指輪を渡してきたこと。




大学生の時はフランスで同棲して、いろんなところを見て笑い合ったこと。




日本で働き始めた時は嘉子が出来て、二人して泣いて喜んだこと。




色んなことがあって、今の幸せな生活がある。




でも私達は一つだけやりたかったことをやってなかった。




「…でも結婚式は挙げてなかった。
籍入れてすぐにフランスに行って、とにかく勉強して働いてばっかだったから」




そう。
私と夕里は未だに式を挙げていない。




本当はいつか挙げようって思ってた。
でも月日が経つにつれて、式を挙げなくても幸せだからもういいかなってその思いは薄れていった。




それなのに今、嘉子が私達の結婚式を挙げようとしている。




「…お父さんがね?『李は俺がいない時密かに結婚情報誌読んでたんだ。だから式を挙げればよかったって後悔した』って言ったの」


「ひ、嘉子!?それは言わない約束だろ!?」




夕里は慌てて魚みたいに口をパクパクさせている。
その頬は40歳とは思えないほど赤くなっている。




嘉子はそんな夕里を見てふっと笑った。