小さな、木の擦れる音がした。
いつの間に起きていたのか。他の捉えられた浪士達も木の扉を見つめる。
全員が身構えたのが分かった。殺気が辺りを満たす。
「長州の情報を聞かせてもらおうか。」
そんな中、土方歳三は覚めた瞳で辺りを見下ろしながら、蔵へと降りて来た。
そうだな…。そんな事を呟きながら土方は辺りを見回す。
視線が合わないよう、全ての浪士が土方から目を逸らした。
誰もが、拷問は嫌なのだろう。
長州の浪士たる者は、そんな覚悟さえもないのだ。
その癖して、父と兄を殺したのだから気に食わない。
あの父と兄は、強く逞しい父と兄は、こんな奴らに殺されたのだ。
強い憎しみ。
こんな時までも笑顔だった、由紀の顔から一瞬笑顔が消えた。
能面のような、感情を一切表さない顔。
その思いに反応するかのように、風の入らない七月の真夏の蔵に、一瞬冷たい風が舞い込んだ。
「…冷気?」
訝しげに呟いた土方は、由紀を見つめた。
いつまでも表情を崩さず、妖艶な笑顔だった由紀の、能面のような顔を見て一瞬絶句する。
少し思案した土方は、とある人間の腕を掴み持ち上げた。
「…てめぇ、ついて来い。」