次々と俺の腹の中へと消えて行く愛しき甘味達。
そういえば昔、八尋と…世界の覇者は甘味なのですっとか騒いだ事があったな…。
八尋は、甘味を見て騒がなくなった。
横で静かに団子を食う佐原を見ると、少し淋しくなる。
懐かしい記憶を呼び覚ましながら、俺、小野寺 雄策は八尋を観察した。
八尋は、かなりの美丈夫だ。
さっきからここの店の娘や、道行く女子達が殆どの割合でこいつを見つめてる。
…本人は気にしてないようだが。
肩につかない長さの、真っ黒で細い短髪。
少しつり上がった切れ長の、紫がかった不思議な二重の瞳。
すっと通った鼻筋に、形のいい薄い唇。
男にしては、細身だが背も低いわけではない。
少し小柄。というくらいだろうか。
刀は滅法強いし、自分を偽ることに関しては超一流。
気配を消されたら彼を捜すのは困難を極める。
まさに間者に適した人間だと思う。
…だが、いやだからこそ、俺は八尋が心の底から笑って居たり、誰かに気を許していたりするのを見たことがない。
どんな時でもその立ち姿には隙がないし、笑顔を崩さない。
いつでも大抵一歩引いた所から、こっちを笑顔で眺めている印象だった。
俺は明日、正直生きているか分からない。
いくら会津公のご命令で間者になっているからと言い、池田屋に居たらまず長州の者、敵として見られるだろう。
新選組は農民や町人が多いと聞くが、それでもかなり腕の立つ集団だと聞いた。
そこから逃げ出すのは厳しいだろう。
だが、新選組は会津お預かり。殺す気には到底なれない。
