「ったく、仕方ないですね。…俺は奢りませんよ。」
俺は渋々許可を出した。
別に俺も甘味が嫌いなわけじゃない。寧ろ大好き。
だけど、流石に仕事の時は控えるだろう普通。
「行くぞ!」
満面の笑みで小野寺は俺の袖をひくと、甘味所へ全力疾走。
「甘味は逃げねぇよ…」
小さくぼやいた。
「団子十本と餡蜜一杯と金平糖二袋に大福二個。」
小野寺がそう叫ぶと、甘味所の女性は面食らったように小野寺の言葉を反復した。
「元気だねぇ。」
小野寺は甘味を前にすると性格が変わる。激変する。
おばちゃんは、人のいい笑顔を浮かべ奥へと下がって行った。
「小野寺…あんた、よくそんなに入りますね…。」
俺達が互いを、長州の間者としての名前で無く呼ぶ時は、ちゃんと周りに長州の者が居ないか確認してからだ。
普段は俺も、橘と呼ぶ。
「…まだまだ余裕だが、生憎金に余裕が無い。」
暫くしてさっきとは違う。もっと若い少女が注文したものを取りにやってきた。
小野寺がそれを見て、瞳を輝かせた。
そんな細身の体でよくあんなに食えるよな。
俺は、団子を一本と餡蜜一つを受け取りながら、小野寺を白けた目で見ていた。
