「そうかそうか。君が佐原くんか。
…顔を上げてくれ、そんなに堅苦しくしなくても良い。」
「そうじゃ。ここは明るい良い奴らばかりじゃ。気楽に寛いでえぇよ。」
その言葉にありがたそうに、嬉しそうに見えるように、思いっきり笑みを作った。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きます。」
そう言って、俺は立ち上がった。
ぱっと視線で小野寺…いや、橘を探した。
まだ後ろにいた宮間に問いかけた。
「橘がどこにいるか分かりますか?」
すると、ぼうっとしていたらしい宮間は方をビクつかせた。
…そんなんじゃ武士失格だぞ、おい。
「え、橘くんが?いないのか?」
「居ない…というか。見つからなくて。」
そうか…と宮間は考え込んだ。
「橘くんの事だから、自分の部屋に戻っちまったのかもしれないな。橘くんは騒がしいのが苦手みたいだから。」
確かに。小野寺ならあり得るかもな。
懐かしさに、ふと笑が込み上げて来た。
「そうですか…では、部屋の場所を教えて頂けますか。」
「あ、あぁ。あっちには行かなくて良いのか。」
少し考え込んだ振りをした後、頷いた。
もともと騒がしいのは苦手だし、今は取り敢えず小野寺に会いたかった。
それを伝えると、宮間は微笑んだ。
「確かに、知らん奴らに囲まれるよりは知り合いといた方が落ち着くな。
よし、じゃぁここから近いから案内するわ。」
「ありがとうございます。」
俺は深々と礼をした。
いくら敵と言えど、人の親切を無下にする気はない。
俺はそこまで堕ちる気はないから。
