「・・・・・・え?」
どういうこと?名前が海ってこと?
でも、少年の口ぶりはそんな感じではなかった。まるで自分自身が海そのものだと言っているかのような・・・・・・。
「いつも、ぼくのことを好きでいてくれて、ありがとうございます。今日はお礼をしたくて、人間の姿の分身を作って、あなたに会いにきました」
「・・・・・・・・・・・・」
さては、危ないひとか?
「あ、疑ってますね?」
「・・・・・・まあね」
「では、証拠をお見せしましょう」
そう言うと少年は、ジーンズのポケットに手をつっこんで、何やら中をまさぐりはじめた。
そのとき突然、海面に垂らしていた釣り糸が勢いよくひっぱられた。あわててリールを巻こうとしたが、あまりにも引く力が強すぎて、わたしは釣り竿を海に落としてしまった。
「あーーーーーっ!?」
大声をあげ、四つん這いになって海を見下ろす。
釣り竿は、海の中に引きずりこまれて沈んでいった。かなりの大物がかかっていたようだ。
ああ、がんばってアルバイトして買ったお気に入りの釣り竿が・・・・・・。
わたしは泣きそうになった。



