少年は答えた。
「いつも見ていたんです。あなたのことを」
「ふえっ!?」
ドキッとして、思わず釣り竿を落としそうになる。


少年は続けた。
「小さい頃から、何度もこの海に来てくれましたよね。初めは三歳くらいだったかな。ピンク色の水着を着て、お母さんにだっこされて。砂浜まで来たんだけど、波が怖くて入れなかった。潮干狩りをしたのは、五歳の時でしたね。あなたは、あさりをとるのが、とても上手でした。お父さんに釣りを教わったのは、六歳の時。失恋して、自分をふった男子の悪口を叫びに来たのは、十四歳の時。」


聞いているうちに、少し怖くなった。


このひと、なんでそんなことまで知ってるの?


「あなた、一体何なの?」
警戒しながら聞くと、少年は答えた。




「ぼくは、海です」