「ぼくと、デートしてくれませんか?」


突然、ひとりの少年に声をかけられた。


日焼けをした、十六歳くらいの少年だった。顔つきは日本人だが、瞳孔が深い青色をしている。ハーフだろうか?


白い長袖のシャツにジーンズを身につけたその少年は、おだやかな笑みを浮かべながら、わたしを見下ろしていた。


「ふえ?」
わたしはまぬけな声をあげてしまった。


なぜならその時、わたしは港の堤防で釣りをしていたからだ。しかも、学校指定のジャージ上下に、麦わら帽子といった格好で。


とてもナンパされる女子にふさわしい、シチュエーション、服装ではない。


わたし、上野渚は釣りが好きだった。


幼い頃、父に教えてもらって以来、すごくはまってしまい、十七歳になったいまでも、暇さえあれば釣り竿を抱えて、近所の海辺に出かけている。


そんなわたしだから、クラスメートの中では、少し浮いていた。他の女子がみんな、ファッションや恋愛の話で盛り上がる中で、わたしは釣り雑誌に載った黒鯛の写真をうっとりとながめていた。


おかげで友達からは、「海ガール」と呼ばれるようになった。


まあ、イヤじゃないけどね。


実際海はすごく好きだから。