すかさず伸びてくる手が私の肩を捉え、逃がさない。
振り向けば、真っ黒い笑みを湛えた倖がいて、自然と冷や汗が背中を伝う。
「どこ、行くんですか?」
逆らえないような、そんな雰囲気を醸し出して訊いてくる。
「ちょ、ちょっと深景先生に…」
こんな時に先生の名前を出すのは卑怯だと解っている。
だけど、非常事態だ。仕方ない。
「それなら後で大丈夫です」
有無を言わせず体の向きを変えさせられる。
なにか、もっと、他の言い訳を考えなくてはっ。
「と、トイレ」
「あっちにもあります」