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 仕事をしてから四時間ほどがたった。


「ありがとうございました」
「ひっ…!ど、どうも…」

 また怯えられた…今日だけで五回目だ。
 私は凝った肩をほぐしながら、ちらりと時計を見た。
 もうそろそろでお昼だ。

 古い本屋さんとはいえ、ほかではなかなか手に入らない本も、ここに来れば手に入ると本マニアの間では有名なここ。
 そんな訳で、暇そうに見えて意外と人が来るのだ。
 しかし、どのお客さんも1時間は本を立ち読みしてから本を買うので、その間が暇である。


「撫子ちゃん、お昼にしようか」
「あ、はい」


 ポキポキと肩を鳴らしていたら、奥の部屋で寝ていたお爺さんが声を掛けてきた。
 その、のんびりした声と口調がなんとも癒される。

 食べても食べなくてもどちらでも構わない、と言っただらしない私は、ここに勤め始めた頃、休憩時は食べ物はおろか飲み物も飲まずただぼーっとしているだけだった。
 しかし、それでは駄目だと、料理が好きらしいお爺さんは毎回なにかお昼を作ってくれる。

 それは、殆ど寝たきりの今も続いている。
 大丈夫だから寝ていて、と言ってもお爺さんが「撫子ちゃんにご飯を作るのが私の楽しみなんだ」と笑って言われてしまえばなにも言えない。
 幸い、寝たきりと言っても動けないほどのことではないらしい。
 起き上がってなにかすることも出来るが、あまり長くなにかをしていると酷く疲れてしまうらしい。