母は私が小さい頃からバリバリ働いているキャリアウーマンだ。
 才能溢れる人で、更には容姿端麗なせいで、既婚者だと言うのに社内ではモテモテらしい。

 一方父も、母に負けず劣らずの働きもので、今は海外出張中だ。
 そんな働きもので、才能あふれる二人の子供の私だが、私自身はまるでダメ人間だ。

 なにがしたいかも分からず、好きなものも特にない、つまらない人間。
 可愛いものが好きだが、可愛いものを見ると頬が緩んでしまい笑ってしまうので駄目なのだ。


「………ごちそうさまでした」


 ゆっくり時間をかけて食べた朝ご飯を片付けてから、私は仕事に行く支度を始めた。

 仕事先は古い本屋さん。
 私以外にいる人といえば、店主のお爺さんぐらい。
 けど、そのお爺さんも年が年で、最近体の調子が良くないらしい。


「お饅頭、買ってこう」


 唯一の楽しみといえば、お爺さんと休憩時間におやつを食べながらお話するとき。
 私が唯一表情を変えるのは家族とお爺さんの前でだけ。
 そのくらい、お爺さんの事が好き。
 優しくて、頼りになって、面白くて。


「さて、今日もがんばるぞ」


 私はむん、と気合をいれ家を出た。