マニュアル通りの始業式を終え、
あたしたちはまた教室に戻る。
担任は、年配の男の人だった。
見事に期待を裏切られた気はしたが、
元々期待してなかったから、ダメージは小さかった。
HRでは、もちろん自己紹介。
と言っても、顔見知りも多かったから聞き流していた。
男子の分を聞いていると、
あの透き通った、綺麗な声が聞こえた。
こんな声は一人しか知らない。
あたしの耳は至って正常で、
彼ーー吉谷君の声を捉えていた。
「吉谷 瞬です。
この地にはまだ慣れてませんが、
よろしくお願いします」
あんなにあたしにはタメ語だったのに。
少し特別な気がした。
みんなの前だから、
そんな前置き、理由があったとしても、
あたしはタメ語の吉谷君を知っている。
ただそれだけで、特別な気がする。
そうやってあたしは、
意味のない、
片想いを始める。
