卒業式では、卒業生全員の名前が呼ばれ、一人ずつ返事をする。
私は在校生席で、ただひたすら前を見ていた。
やがて、先輩の名前が呼ばれる。
「はい!」
大きな声が体育館中に響く。
2年前と同じ背中を向けて、壇上に上がる。
証書を受け取り、降りてくる。
また遠くからだったけど、先輩の端正な顔がはっきりわかるようだった。

今しかない、と決意し、式後に先輩を探す。
校門の前の人だかりをかき分けていく。
その人だかりの外れに先輩の姿を見つけた。
足を止める。
心臓がものすごい音をたてていた。
一歩一歩近づく。
何歩か進んで、また足を止めた。
先輩に駆け寄る、一人の女子生徒。
仲良さげに話してから、二人は手を繋いで人だかりの方へ、消えていった。
しばらくその場に立ちすくむ。
そして、当てもなく私は走った。

たどり着いたのは、中庭だった。
大きな桜の木の前で、手を開く。
ひとひら、花びらが手のひらにのる。
涙が一粒頬をつたう。
2年間の想いと共に、流れていく。
手を閉じる。
「さよなら」
もう一度手を開くと、ちょうど風が吹いた。
風が花びらをさらっていく。
想いは全部花びらにのって。
私は今日、諦める。