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『浜口さん』
中学の遠足で、イルカのショーを見ていた時。
丁度俺の前に浜口さんが座っていて、俺は話しかける。
初めて体育館で話してから、俺達は挨拶を交したり話をしたりするようになっていた。
ほとんどが俺の一方的な話しかけだったけど。
『ん?どしたの?』
浜口さんが振り返って、俺に尋ねる。
『この水族館のジンクス知ってる?』
俺の問掛けに、浜口さんは首を振る。
『イルカのショーの間、黙ってイルカを見守っていると幸せになるんだって』
ちょっと前に流れた噂。
本当かどうかなんて分からない。
けど信じるだけで、噂が本当な気がしてくる。
『そうなの?』
浜口さんの質問に、俺は微笑んで頷いた。
『そっか。頑張ろ』
そう言ってまた前を向き直す。
イルカのショーの間、周りの女子が歓声をあげるなか、俺と浜口さんは声を上げずにイルカを見つめた。

