――確かに、壊れてる。


 拾った眼鏡はつるの部分が折れていて、レンズ部分は割れていた。もう"壊れている"としかいいようがない。





「あの」

「え?」

「俺、弁償しますから」

「弁償」

「本当、ごめんなさい」





 男の人はかなり丁寧だつまた。
 何があったのか様子を見に来た図書室の職員に事情を説明していたのも男の人で、私はふと誰だろうと思った。
 大学の図書室であるから、大学生だろう。はっきりと顔はわからないが、雰囲気は多分。しかし妙に落ち着いていて、かつてきぱきしている。

 けれど。

 私の手にある無惨な姿となった眼鏡。


 だいたい眼鏡の人は普段使うもののほかに、もう一つくらい眼鏡を持っているが―――残念ながら私は持っていない。
 視力が悪いとレンズの厚みが増していく。そして比例するように値段も上がる。レンズ代とフレーム代あわせると、毎回二万くらいは見事にさよならするのだ。二万。その金額はかなり大きい。
 ちゃんとした眼鏡店だとまだ高いかもしれない。そう思うとくらりとする。

 頭には母の怒ったような顔がよぎる。
 仕方ない。

 眼鏡とともに生活していた人なら誰しも一度は眼鏡を壊して怒られたことはあるはずだ。



 けれど。
 手にしてある眼鏡は、見事に壊れた。
 壊れてしまったものは、仕方ない。





「あの、平気ですから」






 平気ではないが、そう言うしかない。
 早く実家に連絡しなくては、と私はおぼつかない状況で、机に広げていたものを気づける。

 一週間が始まったばかりだというのに。

 ああ本当、困った。



 気にしないでください、だなんて逃げるための理由のように言っていた。





  * * *