「もう、忘れた。航太、思い出させないでよ」

 気持ち切り替えたのか?
 それができたのなら、何も言うことはないけど。


「ほら、見て?」

 陽菜が追いついて、左頬を軽く指先でトントンてしながら、見て見てって感じで俺の前に突き出した。

 明るい顏。

「腫れてもないし、赤くもなってないでしょう?」

 はしゃいだような声音。

 それ、無理して笑ってないか?
 で、それ、何のアピール?


「そうだな」

 陽菜の言う通り、いつもの陽菜の顏だった。



 体育館中に響いたような大きな音。

 隣のコートにいた俺達も思わず足を止めてしまったから。

 時間を巻き戻せるものなら、昨日に帰って全てをやり直すのに。


「よかったな」

 陽菜の左頬に触れて、昨日の出来事を後悔した。

 元通り、何にもなかったんだよっていうように頬を見せて、陽菜はにっこりと笑う。


「でしょう? だから、わたしは大丈夫なんだよ」



 なんか、面白くないぞ。