「陽菜。自信をもって。今まで努力してきた自分を信じて。陽菜は陽菜らしく、堂々と戦えばいいんだよ」

 陽菜は抱きしめた僕の手をギュッと握りしめた。


「僕は陽菜を応援しているから。陽菜だけを見ているからね」

「歩夢」

 ちょっと、泣きそうな声。
 泣かせたいわけじゃなかったんだけど。


「こっち、向いて」

 僕の声にやっと、僕の方を向いてくれた。

 真っ暗だから、どんな表情をしているのかまでは見えない。
 でも、逆にそのほうがいいのかもしれないね。

 お互いの気配で、気持ちのニュアンスを感じ取って。


 僕は仄かに見える顔の輪郭を辿って、陽菜の前髪を掻き上げた。

 すうーと指を梳いた髪が、ほんのりとシャンプーの香りをのせてくる。
 僕好みの柑橘系の爽やかな匂い。



「陽菜、明日も早いの?」

「うん。明日は朝練の最終日」

「じゃあ。もう、寝ちゃお? おやすみ、陽菜」

「おやすみ、歩夢」



 訪れる明日がいい日でありますように。



 祈りながら、目を瞑った。