「陽―菜」

 名前を呼んで、陽菜の背中に抱きついた。

「知らない」


 まだ拗ねてるの?

 ご機嫌ななめで、僕の方に向き直ろうともしなくて、背中を向けたまま。
 それでもかまわないけど、そんな陽菜もかわいいから。

「陽菜はさ、1人で何でも抱え過ぎなの。たまにはストレス発散しないと。溜めてばかりじゃきついでしょ。おばさんとだって、もっといろいろ話してみたら。言葉にすれば、案外と苦も無く解決するかもしれないよ?」

「……」 

 高校生になってからは特に、娘と母親っていうよりも、監督と部員って関係の方が日常を占めているし。
 中学生になるまでは、おばさんが部活外でバドミントンを教えていて、師弟関係が長く続いていたから、母娘として過ごす時間って、あんまりなかったような気がする。

 仲はいい方だと思うけどね。


 本音を出して、わがままを言って、甘えて……

 そんなことも陽菜には必要なことだと思う。



 どうするかは陽菜が決めることだから、これ以上は言わないけど。