これは事後承諾ってヤツだよな。

 自分ではなく、陽菜を抱きしめる航太を見て、今の一部始終を見ていた彼女はどう思ったんだろう?

 彼女の目はずっと一点を見つめたまま、陽菜たちが消えていった校門に注がれていた。


「航太って……」

 西野はそこまで言って黙り込んだ。


 あとに続けたかった言葉は何のか分からないけれど、唇をかんで悔しさを滲ませているようにも見えた。


「航太に言っといて。了解したって、伝言、お願いね」


 気持ちを振り切るように、口元に自嘲気味な笑みを浮かべて、それだけ言って帰っていった。

 伝言って……伝えられるはずのないことを。


 気丈なヤツ。


 背筋を伸ばして颯爽と歩いていく後ろ姿に悲愴感はなかったけれど、それがかえって虚勢を張っているような無理に感情を押し殺しているような気がして、俺には悲しく見えてしまった。


 後味の悪い、苦い経験。



 陽菜は大丈夫なんだろうか。