「あの、安達いる?」

「…あー、…たぶん職員室。
由紀が来たって言っておこっか?」
「そっか、…いや、いいよ!さんきゅ!」


優しい声が廊下の雑音と混ざり合い、
柑橘の香りが彼の代わりに教室に残された。


「…これでいいの?」
「そんな目で見ないで「は?」

真っ黒のアイラインを綺麗に跳ねさせた
華凛が溜め息をつく。


「ねぇ、沙綾。
いつまでそうやって逃げるつもり?
いい加減、見てて腹立つよ。」

「…そ、れは…自分でも反省してて…」
「あーあ、かわいそうな由紀ちゃん。
こんなヘタレなチビっ子に振り回されて。」
「ッだって…だって…よく分かんないし…」

「そうだそーだ!
由紀のことなんかどうでもいいんだ〜」

自然と大きくなる声に負けない声が乱入してきた。


あからさまに迷惑そうな顔をする華凛を無視して、
声の正体の有村くんはお得意のスマイル。

「そろそろうちの由紀も、
避けられてんの気付いてるよ〜?」

「ていうかまず、秋斗〔しゅうと〕さん。入って来ないでくれます?」
「華凛さんったら今日もどきつい。俺のM心がくすぐられます。」

「うわ、目も合わせたくないキモさ。」


会話を進める2人についていけず、
ひたすらと眺めるだけの私。



わかってる、けど。


由紀ちゃんとの今の関係が、壊れてしまう気がして…


どんな風に変わるのか分からないのが
怖くて堪らないよ…