「なんだよ。普通に上手いじゃん」


「そ、そうかな?」


「てか、歌えないっていうから、
何で歌えなくなったのかなって思った」


そっか、亜貴はあたしの高1のころの事をしってるんだ。



「ねぇ、何であたしのこと知ってたの?」


「・・・別に。たまたま通りがかったときに、
 お前が勝手に歌ってた」


「え!?」


何だそれ!!


たったそれだけ?


てっきりあたし・・・。


「て、てかさ、この曲男の人の歌詞でしょ?
あたしなんかが歌っていいの?」


意識を変えようと、あたしはそう言った。


そう。


あたしが渡された歌詞を見ると、
それはある男の子が好きな女の子への届かない想いをこらえて、
影で見守るって、そんな感じのものだった。



そんな男の子目線の曲、あたしに歌えるの?


亜貴はびっくりしたように目を大きくして、
それから苦笑した。


「あのさー。まずかったらもうとっくに歌詞なんて変えてるし。
 モッチーがお前に渡したのも、
 あいつだって認めてるからだろ」


「そ・・・そうなの・・・?」


「てか、お前・・・。もうちっと自信持てよ」


亜貴が言うと、
なんだか自分が自分じゃないみたいに思える。


亜貴ってさ、ちゃんとよく顔を見たことなかったから、
気付かなかったけど、


多分俗に言う“イケメン”ってやつだよね。


そんな人とあたしが話してるなんて・・・。


そんな人にあたしが、
“自信持て”なんて言われるなんて・・・。



「藤堂?」


「へ?」


初めて苗字で呼ばれて、あたしはドキッとした。


武田くんたちはあたしのことを“REI”と呼ぶ。


だけど亜貴はずっとあたしのことを
“アンタ”とか“お前”って呼んでたのに、


今、二人だけのこの屋上で呼ばれると、
なんだかもどかしい・・・。


あたしがあたふたしていると、
それが面白かったのか、また苦笑した。