どれだけそうしていたんだろう。


祐兎の苦しそうな息遣いだけが響いていて、
あたしはじっと、祐兎の腕の中にいた。


あたしがすっぽりと入ってしまうように、
祐兎の体は大きくて、

あたたかく包み込んでくれた。



「ねぇ、祐兎」


「・・・ん?」


「あったかい・・・」


「・・・俺も」



祐兎の声が聞こえる。


低くて、心地いい、綺麗な声。


祐兎の胸に顔を埋めると、
心臓の音がよく聞こえた。



その規則的な鼓動に安心して、
あたしは目を閉じた。



「あのさ、あのライブの・・・
 アンコールの曲・・・歌詞かえたろ?」



祐兎が、しんどそうに言った。


少し、咳をしてる・・・。


咳き込むたびにあたしの体は反応して、固まる。


そのたびに祐兎は、強く、優しく
抱きしめてくれて安心させてくれた。




「あれ・・・すっげぇ良かった」



「ほんと?あれは―」




あの曲は、
 あの歌詞は・・・。


あたしの祐兎への―





「なぁ、あれ、今歌ってよ」


「今?」


「ああ。いいじゃん俺、誕生日だし」





ははっと小さく笑う祐兎。



あたしがびっくりして顔をあげると、
祐兎は白い息を吐いた。




「笑わない?」


「ああ」


「絶対?」


「ああ」


「あたし、下手くそだよ?
 音がないと歌えないよ?」


「知ってる」


「祐兎!」


「はは」






ああ。
いつものやりとりだ。



決してロマンチックじゃないけど。



映画やドラマのようにはいかないけれど、



あたしにとってその何気ないやり取りは
すごく大切なものだった。



ゆっくりと息を吸って、目を閉じた。




そして―