「モッチーはさ、喉故障しちゃって、歌えないんだ。今。
だから、あんたに代わりにやってもらおうってわけ」
え・・・。
そうなんだ。
なんか可哀想・・・。
・・・って、ちょっとストップ!!
「だからって、なんであたしなの!?
他の・・・男子誘えばいいじゃない」
あたしがそう言うと、亜貴は苦笑した。
「急だったからさ。だってあんたのバンド、
こないだ大声で“解散”とかやってたし
やめたなら丁度いいかなって」
やっぱり・・・。
まぁそうだけどさ、
それがドラムならまあ受け入れてたかもしれないけど、
ボーカルって!!
「だったら無理。あたし、
歌なんて歌えないもん。音痴だし」
「大丈夫だ。あんたさ、
高1の頃、一人で屋上で歌ってたろ?ホラ」
亜貴はケータイを取り出して操作し始めた。
次第に、歌が聞こえてくる。
“あたしの声”で。
「何それ!?てか、なんで勝手に撮ってんのよ!?」
「悪ぃ。あんまり綺麗だったからつい」
つい・・・じゃないし!!
何それ。
ていうか、亜貴はあたしの高1の頃のこと、
よく覚えてんね。
あたしは、亜貴の存在なんて知りもしなかったのに・・・。
「みんなも了承済みだし、何より・・・」
亜貴はそこまで言うと、
煙草を吸い続けるあいつの方を見た。
「うちのリーダーがお前のこと、気に入ったみたいでね」
は?
気に入ったって?
勝手に気に入られちゃ困るんだけど・・・。

