大粒の雨。
梅雨でもないのに、降りしきる雨。
あーあ、
なんて自分はツイてないんだろう。
傘なんて持ってないし、
まあ、でも今の自分なら丁度いい。
この惨めな心ごと、
洗い流してくれれば…なんて。
「…ねぇ、君ひとり?」
背中の方から、見知らぬ声がした。
振り向けば、知らない年配の男。
荒く息を切らし、紅潮させた顔を見れば
こんな私でも判る。
「…だれ?」
冷たくあしらってやろうと思っていた。
なのに、男はすぐに怯えた表情をして足早に去っていった。
「あっ!い、いや…何でもないよ…っ!」
そう云い逃げして。
でもこんな真夜中に、制服を着た女子高生が一人で出歩けば、誘っていると思われても当然かな。
そう、私の名前は市村 桜羅[いちむら さら]。
地元の高校に通う、普通の女、17歳。
見た目もかなり普通だし、ギャル系とか不良とかには全く興味はない。
そして今日、ついに親が離婚した。
母親も、父親もどちらも私を引き取らなかった。
「もう17なんだから、一人で生きていけるでしょ」と。
二人が口を揃えて云えば、何も云い返せない。
それだけ、私の心は弱く惨めな生き物だ。
だから、雨に打たれてこのまま身体も冷たくなればいいのに。
生半可に暖かい体温も心も全て、
真冬の雪の様に溶かしてくれたらいいのに。
「おい、こんな時間に何してる?」
また、か。
いい加減しつこいんだよ。
「うるさいな…っ」
振り向けば、また知らない男。
今度は若かった。
「年上に向かってうるさいとは。それとも、これはコスプレか?」
冷たい眼差しで、
私を見下ろしているこの男は、何処か怖い。
初対面のはずなのに。
そう、そしてこれが彼との出逢い。
皮肉な程に廻り出す歯車は、
やがて全てを飲み込んで。
この世に無償の愛なんて、
存在しないと思っていたから。