「携帯電話を買ったんだ!」
謎の自己紹介の日から数日後。会長は生徒会室に入るなりそう叫んだ。
「会長、今までケータイ持ってなかったんですか?」
僕が尋ねると、会長はえっへんと胸を張った。
「もちのろん。勿論だよ。昨日初めて手にしたよ」
「はっ。会長ってアナログ人間ですよね。辞書も分厚い紙の本だし」
会長の机の端にどんと置かれた広辞苑を一瞥して、空遥さんは言い捨てた。
「もしかして計算はそろばんですか?」
僕が冗談めかして言うと、会長は驚いた顔になった。
「なんでわかったの?電子式卓上計算機って難しそうで……」
「普通は略して電卓もしくは計算機って言います。僕たちにとってはそろばんの方が難しいですよー」
同意を求めて空遥さんを見るとにらみつけられた。
「たち、って何?一緒にしないで欲しい。私はそろばん使えるし」
「だよねっ、空遥!普通にそろばん使うよね!」
「使えるとは言いましたが実用するとは言ってないです……」
わいわい騒いでいると、舞鈴先輩が部屋に入ってきた。
「咲彩さんが携帯電話を買ったと聞いたので、アドレスを伺いたいなと」
「アドレス?住所?電話番号なら昨日教えただろーが。わざわざ電話で」
「わざわざ固定電話から掛けていらしたので驚きましたわ。携帯電話から掛けていただければそのまま番号登録ができましたのに」
「そうなの!?よくわかんないけど、凄いね、携帯電話!!」
意味もわからずにはしゃぐ会長。
「で、アドレスって何?」
「メールをするときに必要なものです。言うなれば、テキスト版電話の番号ですね」
困り顔の舞鈴先輩の代わりに空遥さんが答える。
「メール……よく耳にするもののどういうものなのかは知らないんだよね……舞鈴、レクチャー頼んだ」
こうして、30分ほどの説明を受けると、会長は叫んだ。
「やってられるかあああああああああああああああ!」
フリック打ちは意味わからんということで、ぽちぽち打っていく方法にチャレンジしたわけだが……。
「きみ、と打ち漢字に変換するのに5回もぽちぽちする必要があるなんてやってられるかあああああああああああああああ!」
 本日わかったこと。会長はちまちました作業が苦手なひとだ。