会長は涙目になりながら、しきりに腰をさすっていた。僕の予言は的中。
「痛い……それじゃあ自己紹介始めるね。ではまず下っぱの雑用から」
「僕ですか?」
「君以外に誰がいるの?変な雑用。自分のことを僕って呼ぶ、変な女」
「一人称のことは放っておいてください」
何度か「私」と呼ぶ努力をしてみたものの、この癖はまったく抜けない。
「よし、こうしよう。今後君は自分のことを僕と呼ばないこと。もし呼んだら罰ゲームだ」
「罰……ゲーム?」
「さあどうするか。おしりぺんぺんか?脇腹こちょこちょか?校内放送で歌うか?」
「全部嫌です」
逃げ場を求めて舞鈴先輩の方を見るが、先輩はこくりと頷くだけだ。いや、なんでここでうなずいた?どういう意味でうなずいた?
「僕帰っていいですかね?今日の仕事はもう片付けて……」
「僕って言ったよ!まだ罰ゲーム決めてないのに僕って!」
嬉しそうに会長は立ち上がった。またも椅子が倒れるが、流石に学習したらしく、椅子を立て直すとこちらに向き直った。
「え、始まってたんですか?」
「当たり前田のクラッカー!」
言うが早いか、会長は慌てて部屋から出ようとする僕に、物凄いスピードで抱き着いた。その勢いのまま床に倒れ込む。
「和音、暴れるのはよしなさい」
「空遥さん、これ僕が全部悪いんですか!?」
手首を押さえられ、動けない。会長は倒れた僕の横顔を無言でまじまじと見つめている。またも「僕」と呼んでしまったことを怒っているのだろうか。会長はおもむろに押さえていた手を離すと言った。
「罰ゲーム決めた。日を改めて実行だね。執行人は舞鈴、君に決めた」
舞鈴先輩はきょとんとした顔で小首をかしげた。
「ほら雑用。自己紹介を続けようじゃないか」
「雑用雑用って……ぼ、私は会計ですよ、一応」
「今のはセーフね」
自分の椅子にどかっと座り、腕組みをした会長。床にぺたんと座ったままの僕からは、かなり高い位置から見下ろされているように見える。見下されているのかもしれないけれど。
「えっと、私は和……」
遮るように、ブザー音が鳴った。
「はぁい時間切れ。次は空遥ね」
「いつから計ってたんですか……」