「やっぱ自己紹介って大事だよね!!」
いきなり叫んだかと思うと、生徒会長は勢いよく立ち上がった。大きな音とともに椅子が倒れる。
「会長。もう5月になりますよ。生徒会員も、お互いのことくらい把握していると思います」
冷静に意見を述べるのは生徒会書記の空遥(そなた)さん。
「そんな固いこと言わないの、空遥。それに、会員を把握するために自己紹介をするわけじゃないんだし」
「は?」
空遥さんは怪訝そうな顔をした。
「咲彩(さあや)さん、それでは自己紹介の意義を失うのではなくて?」
優雅に小首を傾げるのは生徒会副会長の舞鈴(まりん)先輩。唯一会長のことを名前で呼ぶひと。
「舞鈴、わかってない。君は全然わかってないよ」
やれやれ、と会長はかぶりを振ってみせた。
「あら、それは残念ですわ」
「おーい雑用。君はさっきから黙っているが何か意見はないのかね」
「え……えっと」
いきなり話を振られて口ごもる。
「僕は特に意見はないですけど……会長にとって自己紹介はなんのためにするものなんですか?」
「そうだねー、ずばり……」
暫しの間を挟み、会長は改めて口を開いた。
「面白いから!!」
「会長の主観じゃないですか」
僕はつっこんでしまってから、はっと口を押さえた。会長は怒りを込めた双眸で僕をにらんでいた。どうやら僕は、会長のいけないスイッチを押してしまったらしい。
「随分生意気な口をきくんだね。和音(かずね)のくせに生意気だよね」
「すみませんっ、会長の方が面白いと思いますっ」
はっと我に返る。僕はなんてことを口走っているんだ。これでは火に油ではないか。しかし、会長の反応は僕の予想とは掛け離れていた。
「本当?あたしって面白いの?」
眩しいほどの笑顔。どうやら褒め言葉ととらえてくれたようだ。
「え、ええ!面白いですよっ」
「どのへん?たとえばどのへん?」
目がきらきらと輝いている。
「たとえば、会長はこのあと腰、もしくは臀部をさするはめになると思うんです。」
「それが面白いの?変な雑用」
会長は首を傾げながら、すとんと腰を下ろした。だが、その場所に椅子はない。
「にぎゃぁぁぁぁぁあ」
「会長、さっき立ち上がるとき自分で椅子倒したでしょう?やると思いましたよ」