短い人生だった。
そう言ってしまうことが出来れば、
どれだけいいだろう。
もう叶わないと知りながら、
心の中では、また生きて沢山のものを学びたいとさえ
求めてしまう心。
「ご当主、お輿の仕度が整いました」
儀式を仕切る康清も白装束を身にまとって姿を見せる。
「ご当主、早朝よりお支度の儀、お疲れ様でございました。
これより、ご当主の頭髪を僅かに頂戴いたします」
そう言うと深々とお辞儀をした後、
何かで髪を少し削ぎ落としているのを感じた。
懐紙に包んで、胸元にしまい込んだ後、
再びボクの方を見て、深々と頭を下げた。
……もう全てを諦める……。
何度も何度も自分に言い聞かせてきた。
これが宿命であり、
父さんや母さんも背負った現実。
「それでは、これより儀式を始めたいと思います。
ご当主は、どうぞお輿へ」
康清の声の後、
ボクは行列の先頭を歩くように洞窟を後にする。
暗がりの洞窟を出ると、
太陽の光が雲の合間から差し込んでいるものの
外は今にも雨が落ちてきそうな天気だった。
同じように白装束に身を包んだ村人たちが
輿のところまで、左右に行列を作って地面に頭を擦りつけるようにお辞儀している。
そんな花道を一歩ずつ、自分の足で踏み出すと
輿の中へと乗り込んでゆっくりと座った。
輿の飾り扉が閉じられて、
「ソーリャー」の声と共に、一気に浮遊する感覚が伝わる。
掛け声が続けられる中、一歩ずつ担ぐ人々が一歩踏み出すたびに
輿の中のボクにまで、その振動が伝わってくる。
外は何時の間にか、雨音が聞こえるようになっていた。