時雨が仕事の為に病室から出ていった後も、
私は一人、飛翔の病室に留まり続けた。
「飛翔……また行くんだよね。
神威君を探しに」
「あぁ」
「なら……明日は私も休みですから、
手伝わせてください」
手伝わせてください。
思いつきで告げたものの、
今の私に何が手伝えるかなんて、正直わからない。
だけど……それでも、
そう告げずにはいられなかった。
「あっ、俺の車……」
そう漏らした飛翔の言葉を聞き逃さない。
「飛翔は時雨の車で帰ってきましたからね。
飛翔の車がないのは不便ですよね。
明日は私の車で出かけましょう」
そう言いながら、赤いミニクーパーを思い浮かべる。
その夜、久しぶりに飛翔の傍に寄り添う。
「仮眠室で眠らなかったのか?」
朝、目が覚めた飛翔が椅子に座ったまま
眠り続けていた私に声をかけた。
「仮眠室に行くのが面倒だったので。
飛翔が眠ってる間に、嵩継さんにはちゃんと話つけてきました。
無事に用事終わらせてから、一応検査だけ受けとけって。
出掛ける前に医局に顔出せって、嵩継さんからの伝言。
私、先に医局に顔出してきます。
飛翔も準備が出来たら来てくださいね」
そう言って病室を後にすると、ロッカールームから鞄を手にして
医局へと顔を出す。
そこには、本宅から朝食の出前をしてきたらしい勇が、
サンドウィッチとサラダをテーブルに広げて、
嵩継さんが仕事をしながら食事をしていた。
「おはよう、由貴。
飛翔は?」
「もうすぐ来ると思う」
短く告げると、当たり前のように準備された飲み物が
机の上に置かれる。
用意された珈琲を飲みながら、
サンドウィッチを一切れ掴み取ると、口の中にいれる。