だけど……そんな我儘は、
今のボクには許されないんだ。
ボクは一族の民を守る長。
その為には……この命も、
投げ出さなくてはいけない。
ボクの命は、ボクだけのものじゃないんだから。
「ご当主、康清でございます」
ドアの向こう、聴きなれた声が聞こえる。
慌てて布団から体を起こすと、
その布団の上で正座をして覚悟を決めたようにドアを見つめる。
「入れ。康清」
威厳を込めて告げた言葉の後、
ゆっくりと康清がドアを開けて部屋の中に入って来る。
「ご当主、お知らせ申し上げます。
魂還りの儀、一週間後と一族の総意を持って
決定致しました。
お心静かに、それまでをお過ごしください」
恭しくお辞儀をして部屋を後にする康清。
「康清、今日のご飯は食べやすいものにしてほしい」
今までまともに食事をとろうとしなかったボクが
突然告げた言葉に、康清は驚いた表情を見せながらも
「畏まりました」っとゆっくりと頭を垂れて出ていく。
何時もと同じように、外から閉ざされるドア。
それも後、一週間。
最期を告げられた時間、
ボクはどうやって過ごすことが出来るのだろう。
当主として……。
窓の外に映る雨は今も激しくて。
そんな激しい雨に、ボクの覚悟を後押しして貰うように
ただジッと、雨音を聞きながら独り過ごしていた。