外は風が強いのか、生き活きと茂った新緑が
風に吹かれてたなびいてる。



時折、窓ガラスに打ち付けてくるような
雨をただ見つめながら、あの日を思い出す。




お父さんの最期の日。



ボクは、昂燿校の幼稚舎の寮で生活してた。

お父さん自ら、車を走らせて迎えに来てくれて、
話をしながら帰宅した車内。



それがゆっくりと、ボクとお父さんが会話した最期の時間。



学校のことを沢山質問してきたお父さんに、
ボクは嬉しくなって、いろんな話をした。


屋敷に戻った後は、すぐにお父さんはボクを華月に預けて
何処かへ消えてしまった。


暫くして姿を見せたのは、真っ白な装束を身にまとったお父さん。



そしてお父さんは、激しい雨の中
村人たちの籠に乗せられて、帰らぬ人となった。



翌朝、ボクの前に勢ぞろいした一族の者たちは、
皆、頭を下げながらゆっくりと言葉を続けた。



「先代ご当主であられる徳力信哉さまは、
 昨日、その天命を全うしお命を天へと還されました。

 今日、この時を持って徳力神威。
 貴方様が一族の長。ご当主となられます」



まだ寝起きで、何もわからないままに就任を告げられたボクは
その日から、華月と万葉に助けられながら歩き続けた。



当主としての意味も、役割も何も知らぬままに。



その後、華月と万葉から託されたものは
袋に入って、懐紙にに包まれた、真っ黒い髪の毛。




「華月、これは何?」


お父さんの髪の毛に触りながら、泣きながら呟いたボクに
華月をただ黙って抱きしめながら告げた。


「ご当主のお父様のご遺髪です。
 万葉と二人、埋葬しに参りましょう。

 ご当主のお母様のご遺髪がある場所と同じ場所へ」



華月がゆっくりと、抱きしめながら続けた言葉。


そして真っ黒い服を着て、逢えなくなったお母さんが眠っていると聞かされたお墓へ
その髪をおさめた時、初めてもうお父さんが帰ってこないのを思い知った。



この場所に来て、
あの時の出来事が少しずつ明確になってくる気がした。



ボクも後少しで、
お父さんやお母さんの傍に行くことになる。



それはそれで……嬉しいのかもしれないけど、
だけど今は、何故か……嬉しくないんだ。


お父さんやお母さんに会うことよりも、
まだこの世界で、やってみたいことが沢山ある。