だからこそ……、そんな恐怖から少しでも自分を現実逃避させたくて
神水ばかりを飲む。


神様の水を体内に取り込めば、
ボク自身が浄化されて、心穏やかに最期を迎えられるかもしれない。


だけど……縋るように、飲み続けた神水も今では
思うように飲めないほど、ボクの体は弱っていくのが感じられる。


このまま衰弱して命を落とすこと。

当主として、
責任を持って自らの意志で海に還ること。




どちらの方がいいかと問われれば、
当主としての意志で最期を迎える方が
どうせ失われる命だとしても、民の為に使い果たせたのだと
強引に納得させる術がある。




お父さんも、お母さんも……本当はどうやって、
その儀式に望んだんだろう。




そしてボクが……海に還った時、
誰が……心の底から、ボクの死を悲しんでくれるだろう。



そんなことを考えながら布団で横になり続ける。





脳裏に浮かんだ顔は、生意気な桜瑛。




アイツは多分……本気で怒って、
本気で泣いてくれるだろう。



唯一、ありのままのボクで話すことが出来た存在だから。




桜瑛だけ?





そう思いながら、更に考えていくと
脳裏に浮かんだのは、華月ではなく……早城飛翔。


アイツの存在だった。




一族の重荷から逃げ出したアイツ。



許せるはずのないアイツなのに、
時折、アイツを求めていくボク自身を感じる。





……お父さん……。





アイツの中に、
お父さんの面影を感じるから……。





わざと打ち消すように頭を振って、
布団から体を起こすと、大きな窓ガラス越しに外の景色を見つめる。