徳力以外の何処に、今の世の中、
自然災害が起きて自然の怒りを鎮めるのに
海に贄(にえ)を捧げるヤツがいるんだよ。




思い返すだけで閉じ込めていた怒りが
湧き上がって、思わず拳を作って床を一発叩きつける。




「飛翔……生神の使命って?」




由貴が驚いたように小さく呟いた。



「当主は生神。

 生きた神様がいる、総本家の人間は、
 神に連なる存在として特別待遇される。

 だが、それは……来るべく時、
 村人たちの災厄を引き受けて身代わりになって
 その身を海に投げ出す存在。

 自然の怒りがその身に起こりうる時、
 それを鎮めて村人を助ける。

 それが……生神の務め」




そう。



残される家族の寂しさなど誰も考えもしない。



自らのエゴだけを最優先に考えた殺人。




贄の儀式の後、真っ黒な喪服に身を包んだ
村人たちが提灯に灯りをともしてやってくる。



その時、家族に託されたのは
懐紙に包まれた髪の毛のみ。



その髪の毛を袋に詰めて残されたものは菩提を弔う。



その時は、幼すぎて何一つ気が付くことがなかった
その出来事が、大人になるたびに異常なのだと感じとっていく。



両親の死後、
次の当主になったのは歳の離れた兄貴。



親父の髪をお墓に納めた後、
村人たちは兄貴に向かって一斉に深々とお辞儀をした。




「飛翔……そのご両親は?」


「生神の務めを果たした当主を弔うために
 家族に届けられるのは一握り髪のみ。

 喪服に身を包んで仰々しい葬送行列の果て
 お墓におさめられた。

 その後は、次の贄が当主として選ばれる。

 親父の次の当主は歳の離れた兄貴」


「あの中学生くらいの?」

「あぁ。
 あのガキの……神威の父親だよ」




兄貴の傍でこのイカれてる一族の中で
一緒に生活して、そして……俺も、
村人たちの望むままにいつかはこの命を落とすんだろう。




そう思ってた……。