口早に告げると電話の向こう、
冬生もまた同じようにTVをつけたらしく
『大変な状況だね。
どうなるかはわからないけど、一応頼んでみるよ。
飛翔、先月は俺たちも大変だったけど、今度は飛翔が踏ん張らないとね。
後で連絡するよ』
っと冬生は電話を切った。
携帯をポケットに突っ込んで、
俺は一度自室に戻って出掛ける支度を整えると、
再びリビングへと顔を出した。
「飛翔、行くのね」
そう言って俺に近づいてきた養母【はは】の手には、
封筒が握られていた。
「何?」
養母は、黙って俺の前に封筒を差し出す。
促されるまま封書を手に取り開く。
差出人は兄貴。
封筒の中から出て来たものは、
・俺名義のマンションの権利書。
・徳力の家を出てから今日まで、
俺の養育費として兄貴から振り込まれ続けた通帳。
・古びた紙切れ
その紙切れには、梵字のような象形文字のような
理解しがたい文字が描かれていて、かろうじて俺が読めたのは
『雷龍翁瑛宵玻(らいりゅうおうえいしょうは)』の文字。
最後に出て来たのは、
年季の入った1枚の便箋。
ゆっくりと開くと、
そこには兄貴からの文が綴られていた。
*
飛翔。
お前が再び、自らの意思で徳力と関わることを選ぶならば
これを持て。
私が亡き後の当主。
神威はまだ幼い。
叶うなら飛翔、お前が私に代わって
神威を私の息子を守ってやってほしい。
お前を私の意思で一族から外に出しておきながら
都合がいいかも知れんが。
来るべき時が来て、自らの意思で
徳力に戻ると言うならこの札を仕え。
私の力、私の宵玻との契約の絆が
封じ込められている。
一族に置いて、宵玻と交流出来しものは
当主の一族のみ。
その札が、一族の全てを黙らせるだろう。
信哉
*