「氷室君でしたね。
 いつも息子が仲良くして頂いているようで……」


そう言うと、白髪交じりの年配紳士はゆっくりと私にお辞儀をする。


「今は妻も鷹宮でお世話になって」


私にお辞儀をしながら言葉を続けるその人は、
初めてみる飛翔の養父らしかった。


「万葉さま、息子の友人の手続きだけ受付で済ませてすぐに参ります」


っと飛翔のお父さんは告げると、そのまま
私をマンション内に招き入れて、受付へと連れて行く。


そこで私が訪問した時は、すぐに入室できるようにとセキュリティーに登録して貰えるように
手続きを済ませて、すぐにマンションから出ていった。


マンションのロビーで残された私は、
受付で教えられた部屋番号をロビーのインターホンから呼び出す。



何度目かのコールの後、

「はい」

っと、少し疲れていそうな飛翔の声が聞こえた。


「飛翔、話があって参りました。

 お邪魔していいですか?」


相手が断れないようにわざと、語尾を強くして
ゆっくりと告げる言葉。


暫くの沈黙の後、
「好きにしろ」っと短く飛翔が答えた。


受け入れてくれたと言うことは、
まだ遅くはないと言うこと。


飛翔の部屋から、
最上階まで続く専用エレベーターのドアが開かれる。


最上階の部屋の住人となった飛翔は、部屋に行くのも、
今まで以上に厳しいセキュリティーに監視された空間だった。


彫刻されたドアを潜ってエレベーターに乗り込むと、
ノンストップで最上階まで上がって行く。


ドアが開くと、真っ赤な絨毯が敷き詰められた先に見えるドア。



真っ直ぐにその部屋に向かって、
再びドアの前のチャイムを鳴らすと、ロックが解除される電子音が奥から聞こえた。


ドアノブに手をかけて、扉を開くと室内は真っ暗。



煙草を吸ってるのか、
部屋の中には煙が残っている。


「飛翔、お邪魔しますね」



中に声をかけて真っ暗な暗闇を歩き進めると、
足に触れる丸い何か。


屈んだまま手で触れて、その何かが、
空き瓶と空き缶だと言うことに気が付く。


「飛翔、電気つけますよ」


壁際にあるはずのスイッチを携帯のライトを頼りに
見つけると押す。


明るくなって映し出された部屋の床やテーブルには
飲み干した後のアルコールの残骸。


だけど……その部屋にも飛翔の姿は見当たらない。



「飛翔?」



飛翔が居そうな部屋を探して
最初の部屋を飛び出す。


次から次へと部屋をあけて飛翔の姿を探す。