「今、昼食をとってたんだ。
 飛翔も食べていきなよ。

 その後、少し休んでくんでしょ。

 飛翔が来たってことは、お父さんが全てを話してくれて
 飛翔が条件を受け入れたってことでいんだよね」



全ては勇の企み通りに進行したのか、
俺の状況を把握しているように勇は告げる。



「ほらっ、早城。
 とっとと食え。

 食ったらベッド借りてとっとと寝ろ。
 一本、点滴ぶら下げといてやる」



笑いながらそうやって告げる嵩継さん。





そんな言葉に甘えながら、
俺は院長夫人の手料理を頂いて勇のゲストルームのベッドを借りた。



宣言どおり、手慣れた手つきで
点滴をぶらさげると、嵩継さんは病院の方へと戻って行く。




「飛翔、起きたら出掛けるんだよね。

 二時間コースみたいだから点滴が終わる頃に、
 針だけ抜きに来るよ。

 だから飛翔は起きるまで、何も考えずに休むといいよ。

 後、これもお父さんから。
 眠れそうになかったら、眠剤も使えって」



勇から手渡されたそれを、コップに注がれた水で流し込むと
俺は倒れ込むようにベッドに体を委ねた。




随分と久しぶりに、まともに食べて眠るのかも知れない。




すぐに何かに引っ張られるような強い感覚が押し寄せてきて、
その波に委ねるように、眠りの中へと誘われた。



久しぶりの睡眠で泥のように眠り続けた俺が
目を覚ましたのは、翌日の昼に差し掛かろうとしていた。




着替えを済ませて、階下に降りると
昨日と同じように、院長夫人がテーブルに昼食を用意してくれている。




「どうぞ。
 出掛ける前にお昼ご飯、食べていってくださいね」



そう微笑みながら告げると、
そのまま院長夫人は、倍音とか言うフレーズを空間に響かせるようにして歌いながら
ピアノを伴奏する。




「あらっ、お食事中に煩かったかしら?
 ごめんなさいね。

 明日が教会での、倍音ワークのリサイタルだから少し練習したくて」



由貴が興奮気味に告げる、
この院長夫人の倍音ヒーリングと呼ばれるジャンルの歌声。




その良さが理解できないまま今日まで来たけれど、
僅かに聴いたその意味の分からない言葉が、
今は凄く優しく体に染み込んでくるように包み込む。




「初めてですけど、優しい響きですね。
 由貴が……高校の頃から、この歌に支えられていたみたいですね。

 今ようやく、俺も少しその意味が分かった気がします」