「よしっ、お前ら無事に今日を迎えたな」
嵩継さんが、勇と千尋君を弄るように言葉を掛けていく。
和やかな雰囲気が、ドアが開いた途端に一転して張りつめる空気。
姿を見せたのは、鷹宮院長と、水谷総師長。
そして……もう一人。
「今日から君たち研修医は、この病院で医者としての第一歩を踏み出すことになる。
此処に居る私をはじめ、成元【なりもと】・城山・安田をはじめ、
当院に居るスタッフが君たち研修医の指導者となる。
今日から二年間、しっかりと研修を行って、
叶うならば研修後も当院で働いてくれることを強く望んでいる。
知っていると思うが、昨日、胃潰瘍で早城君のお母さんが入院された。
今日、嵩継と城山先生とのオペが予定されている。
早城、気になる時は声をかけて様子を見にいっていいぞ」
そう言って、勇の養父は言葉を続けた。
そんな院長の言葉に、飛翔は無言で丁寧にお辞儀をした。
そうやって始まった研修医としてのスタート。
毎日が勉強の日々が再び続く中、
飛翔は今も研修の合間に、神威君を探しに出掛けている。
昼間の研修、夜には神威君の捜索に出掛けて、明け方、病室に帰宅して
簡易ベッドで仮眠をとる生活を続ける飛翔。
少しずつ私や時雨を頼ってくれていた、
刺々しさが薄らいだ、最近の飛翔とは違って
この頃の飛翔は、出逢ったばかりの頃を匂わせた。
飛翔……今も貴方は、
あの頃と何も変わっていない……。
独りで大きな何かを全部抱え込んで、
飲み込まれないように必死にもがき続けている。
そんな風に映る、親友の姿を見届けながら
私は、自分の中で静かに誓う。
時雨にしても、飛翔にしても……
今の私出来ることは、ただ運命を必死に対峙し続ける彼らの傍に
居続けることだけ。
だからこそ……そんな二人が、手を差し伸べた時、
私がそのサインを絶対に逃すことのないようにしたい。