用意された部屋は、彫刻が施された家具が備え付けられていた。



キッチンにある冷蔵庫を開けると、
綺麗に整頓されて、飲み物と、サンドイッチがラップに包まれて置かれてあった。



カップボードからガラスコップを取り出して、
ペットボトルを開けてお茶を注ぐと、そのままカウンターテーブルで
お皿に並べられてあるサンドウィッチを頬張って、ベットに転がった。



すでに運びこまれた僕の身の回りの荷物。



その中のポーチに収められている、学院の生徒手帳を取り出す。


手帳の中に納まっているのは、幼い日のボクの家族写真。




生まれたばかりのボクを抱きしめて微笑んでいる母さん。


父さんも母さんも、着物に袖を通して
きっちりと写真の中に僕を抱いておさまっていた。




そんな唯一の家族写真を指先で辿りながら、
広いベッドで、眠りについた。





翌朝、電話の音で目が覚める。



「誰、こんなに早く」

「おはようございます。
 準備が出来次第、階下に降りてこい。

 昂燿校まで送る」


アイツが用件だけ告げると、電話はプツリと切れた。



同時に、ドアをノックする音が聞こえて
華月の声が響く。



「ご当主、制服をお持ちしました」


声のままに、ドアに向かってチェーンを外し、内側から鍵を開けると
ボクはドアノブをゆっくりと下に下げて、ドアを開けた。



丁寧にお辞儀をして、ボクに制服を手渡す。



「華月、出掛ける準備をする」

「はいっ。
 かしこまりました」



そのまま神威を部屋の中に招き入れると、
ボクは制服に袖を通す。


その間に、寮に戻るための荷物をまとめてくれた華月と共に
最上階の部屋を後にして、階下へとエレベーターで向かう。



「飛翔……」


華月は、アイツの名を呼ぶ。


「神威、行くぞ」


アイツの愛車らしいスポーツカーの助手席のドアを開けて、
飛翔が声をかける。



無言で華月に助けを求めるものの、
アイツはそれを阻止するように「一人じゃ乗れないか?手をかしてやろうか?」っと
挑戦的に告げてくる。


売り言葉に買い言葉のように反射したボクは、
勢いでアイツのスポーツカーの助手席に乗り込んでいた。


手荷物を華月がアイツに預けると、アイツはすぐに荷物を片付けると
運転席に座り込んでエンジンをかける。



「行ってくる」


アイツの運転で走りだした車は、
昼頃には、昂燿校の学院入口へと辿り着いていた。



そのままアイツは、警備員に何かを見せると
閉ざされていた門は開いていく。



此処に来るまで、やはり会話すらなかったのだが
ここで思い切って問いかける。



昂燿の門が開くはすはないと思っていたから。



「お前、どうして学院の開けられた?
 ここは生徒と卒業生以外、入れないはずだろ」

「そうだな。
 でも俺も悧羅の卒業生だ。
 入れて当然だろ」