そんな時も、飛翔を睨み続ける神威君の視線は変わらない。


飛翔もまた困惑したように無言で黙り込む。



病室内に重たい沈黙が広がった後、
ベッドの上の少年が小さく告げた。




『阿部の者がお世話になりました』っと、
ただそれだけ。




それ以上は会話を続けられる雰囲気でもなくて、
私も勇もただお辞儀をして、病室を後にした。



私たちの後を飛翔もまた追いかけてくる。





「何となくわかったかも。
 飛翔がそんなに疲れ果ててるの」

「飛翔、神威君っていつもあんな感じなのですか?」

「村を離れてこちらに連れて来てからはずっとあのままだな。

 意識が戻ってからは、
 何度も病室を抜け出して安倍村に無意識に帰ろうとする」



ナースステーションに寄って勇が見知ったか人を見つけたのか、
少し喫茶店まで行くことを告げて、神威君の監視をお願いすると、
私たちは二階の喫茶室へと移動した。


喫茶室は、見舞客と入院客・見舞客同士がお茶をしてたり、
休憩中の病院スタッフが関係者専用スペースでそれぞれの時間を過ごしていた。



テーブルにつくと、それぞれ想い想いのものを注文して
私たちは溜息を吐き出した。




「悪かったな。

 せっかく来てくれたのに、あのガキあんな調子で」



そう言って切り出した飛翔は、
私と勇に、私たちが帰ってくるまでの飛翔の時間の使い道を説明してくれた。



基本、殆どは神威君の病室に居ながら、
神威君が眠っている間に、徳力絡みの準備に奔走していたらしい。


安倍村で被災した人たちを、自分のマンションに住まわせるために
それぞれの部屋に備え付けの家具や、必需品を備品として手配して
被災者たちが、その日から少しでも快適に生活できるようにと
準備に追われていたみたいだった。




そんな生活を送り続けた飛翔。


だったら疲れも出るはずだと、
自分に言い聞かせながら、


「勇の部屋でも借りて、少し集中的に休んできたら。
 私なら、昨日こっちに戻ってから勇のソファーベットでぐっすりと眠りましたから。

 私が見ていることも出来ますよ。
 それに私も少し、神威君に興味があります」



そう告げると、注文した飲み物がテーブルへと運び込まれて
私は紅茶を口元に運んだ。



飛翔はブラックコーヒーを飲み、勇はカフェオレを飲み始める。