「随分とお疲れのようですね。
 眠れていますか?」


「いやっ。
 やることが沢山あってな。

 俺は……兄貴の権限を借りても、
 一族にとっては、厄介者なんだよ。

 神威にとってもな……」



最後の言葉を寂しそうに履き出した後、
飛翔は座っていたソファーから立ち上がる。




ふいに特別室に着物姿の華月さんが姿を見せる。




「飛翔、そろそろ参りましょうか?」



長い黒髪が特徴の女性は
上品に告げると、飛翔はその女性の方へと近づいていく。



「華月、俺の親友。
 氷室由貴と緒宮勇人だ。

 安倍村の災害時にも、手伝いに来てくれた」


「えぇ、飛翔存じていますわ。

 あちらでもご挨拶させて頂きましたが、
 この度は本当にお世話になりました。

 今日よりこちらで、当主がお世話になります。
 どうぞ宜しくお願いします」


そう言って華月さんは再び、優雅にお辞儀を続けた。



「ガキを迎えに行ってくる。

 ここに連れてきても、
 俺はガキとまともな会話にはならないだろう。

 だから……由貴や勇が、ガキの話し相手になって貰えたらと思ってる」




そう言うと飛翔は、華月さんと共に特別室を出ていった。



二人の後を私と勇も慌てて追いかける。


その途中、勇が病院内の売店でブラック缶珈琲を購入すると
「飛翔」と名を呼んで、振り向いた時に放り投げた。




「飛翔、僕に出来ることがあれば何時でもいって」


そう告げた勇の言葉を追いかけるように私も続ける。



「えぇ、勇の言う通りです。
 私も出来ることを精一杯、お手伝いさせて頂きますよ。

 今は神威君を無事に連れてきてください。

 その後、時間が出来たら夜にでも話しましょう」




そう言って飛翔に手を振る。




軽くいつもの様に、「わかった」っと言うように手だけをあげると
鷹宮のエントランスから飛翔は出ていってしまう。





止まない雨は今も降り続ける。